うまれることと死ぬこととvol.11

お葬式が終わり、いよいよ出棺となりました。

人々は泣き腫らした目でそれぞれの家に帰っていきました。集まった人は皆私と同じ母親であり、あのような小さな棺を見るのが初めてだったのです。

私の高校時代の親友が2人、一緒に遼ちゃんを送らせてほしいと言ってくれました。互いの悩み、幸せ、成長を、ずっと見続けてきた20年来の友です。彼女達に見守って貰えるのは心強いことでした。

火葬場まではそれぞれ車で向かいました。夫は遼ちゃんと共に葬儀社の方の車に乗り、術後間もない私は息子と共に親友の大きな車に乗せて貰ったと記憶しています。

葬儀社の方が、棺の上に置く花があった方が良いのではと教えてくれました。私達はそんなことは全く思い付きもしませんでした。

あのとき、私達はもっともっと棺に入りきらないくらい沢山のお花を買えば良かったのに。

餞けの花束のことなど考えもしなかった自分達の至らなさに情けなくなりました。

まだ間に合うので買いに行きましょう、と葬儀社の方が遼ちゃんを乗せたままの車にエンジンをかけました。

私は色々な感情に耐えられなくなり、目眩がして立っているのがやっとでした。たかだか花束を買うというだけのことが、その時の私にはとても難しいことに思えました。夫は私を支えていました。

その時、私が行く、と妹が手を挙げ、素早く助手席に乗り込みました。私達はホッとしました。

それほど待たずに車が戻って来ました。妹の腕には、やわらかなオレンジ色の花束が抱えられていました。

「これは私からの遼ちゃんへのプレゼントにして」

とても葬儀専門の花屋さんが作ったものとは思えないような愛らしい花束でした。きっと妹が一生懸命選んでくれたんだろうと思いました。

いよいよ本当にお別れの時が来ました。どんなにキスをしてもし足りない気持ちでした。出来ることなら抱き上げて、抱き締めてあげたい。でもそれは叶わぬことでした。

棺の蓋が閉められました。花束を上に置くと愛らしいプレゼントのようになりました。

唇に、あのヒンヤリとした感触が残っていました。

炉の蓋が開き、轟々と火が燃え盛っているのが見えました。台に乗せられた棺はゆっくりと炉の中に滑っていきました。

行ってしまう、と思った瞬間、私は半狂乱で叫んでいました。

遼ちゃん!!遼ちゃん!!!遼ちゃん!!!

できることならあの火の中に自分も飛び込みたい。せめて声だけでも遼ちゃんと共に行ってくれという気持ちでした。

重い扉の閉まる音が私の声を無惨に断ち切りました。

私は泣き崩れて座り込みました。

息子が私を守るかのようにしがみつき、涙を流していました。まるで私が子供で、彼が大人のような泣き方をしていました。

待合室でどれくらい待ったか記憶にありません。確か鯉が泳いでいて、息子が喜んでいたような、息子が従業員のおばさん達に愛嬌を振りまいて可愛がられていたような、そんな記憶があります。

焼き場へ戻ると、遼ちゃんの棺があった筈の台の上には灰色の珊瑚のカケラが撒き散らされているようでした。

それは、小さな小さな骨でした。

白い手袋の男の人が台に付き添って立っていました。彼の目は、暗く、底の見えない湖のようで、どこか別の世界の住人に思えました。

感情の無い、抑揚の無い声で、淀みなくお悔やみの言葉が述べられました。

この人は一体どれだけの死を見送ってきたのだろうと私はボンヤリ考えました。

彼は一切無駄の無い滑らかな手つきで全てを取り仕切っていました。

私は夫と二人で大腿骨を拾ったと記憶しています。誰もがイメージする、あの骨の形。掌に乗るミニチュアの大腿骨でした。

全ての骨を納めても、一番小さな骨壷の半分も満たしませんでした。なんだかダブダブの洋服を着せているようで、不憫に思えました。

骨壷を抱き外に出ると、風が目にしみました。

振り返ると、煙突から薄く煙が上がっていました。絶え間なく空へと吸い込まれていく煙を眺めながら、今も誰かが焼かれているんだろうか、あの中に遼ちゃんの煙もあるのだろうかと考えていました。

 

うまれることと、死ぬことと。

当たり前の日常に、その二つはあるのでした。

今も人は生まれ、死んでいるのだ。たった今、この瞬間も。

その理解が胸いっぱいに広がりました。

私の腕の中で、小さな陶器がカタカタと音を立てていました。

 

神様、私はいつも生かされている意味を考えます。

どうか、主よ、私にできることを教えてください。


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