うまれることと死ぬこととvol.16

それから臨月までの数か月間は天国のような日々でした。

お腹の子は順調に成長し、私は不安や恐れが全く取り払われ、ただただ祝福に満ちた毎日でした。あの頃は今のようにはっきりとした信仰は持ち合わせていませんでしたが、今思うと私は毎日祈り、毎日感謝していました。亡くなった遼ちゃんの方向に神様がいて、遼ちゃんを思うとき神様を思うことができました。遼ちゃんはこの愚かな母親の手を引いて、神様の元に導いてくれていたのだと思います。

臨月に入り、医師から出産日を知らされました。帝王切開をする日です。

当初の出産予定日通り9月5日、遼ちゃんの誕生命日でした。勿論その日の意味を医師は知りません。

「遼ちゃんはもう一度あの日に生まれてきたいんだ。今度は元気な姿で・・・」

私たち家族はこれを偶然とは思いませんでした。何か大きな巡りあわせを感じていました。

それというのも、遼ちゃんが無くなった直後、神様や霊界を全く信じていない私の夫が、こんな夢を見たのです。


薄明りの生暖かいピンク色の世界の中、どこか内臓の中のような感じです。見ると目の前の洞窟の入り口に小さな男の子が立っていました。長男にとてもよく似ていましたが、明らかに違いました。

「遼君?」夫が声をかけてみると、「そうだ」というふうに頷きました。

少し寂しそうな様子に夫は胸が締め付けられ、「もう行っちゃうのか?」と尋ねると、その子は再び頷きました。

夫はたまらなく悲しくなり、「でもまた来るよね?」と言うと、その子ははっきりと頷きました。

ああ、良かった、また来るんだ、また会えるんだ、と思ったときに目が覚めました。そして不思議に思って命日からの日にちを数えてみると、まさに49日だったのでした。


その日、朝私が起きると、珍しく夫が遼ちゃんのお骨の前に座り、お線香をあげていました。(その当時も仏教は信じていませんでしたが、お線香をあげることだけは良いことだと思っていました)

そしてそのエピソードを聞き、夢で遼ちゃんに会えた夫を羨ましく思いました。私はどんなに恋い求めても、決して夢で遼ちゃんに会えなかったからです。

そして、私の親友の娘さん(当時7歳)が「胎内記憶」と「胎内前記憶」を持っており、私に教えてくれました。彼女がお空の世界にいた時、下の世界に生まれていったのにすぐに戻ってきてしまう子がいたと。そんな子は全く同じ顔をして戻ってくるから、すぐそれと分かるのだと。

彼女は「神様は下の世界に子供を送り出すときに、おへそに銀色の玉のようなものを入れてくれるのだけれど、きっと遼ちゃんは入れてもらうのを忘れちゃったんだね」と言っていました。(彼女から聞いた胎内記憶、胎内前記憶については、改めて記事にしたいと思います。)

そのようなエピソードの数々があったので、その当時、私達家族は生まれ変わりを強く信じていました。(今は前世や生まれ変わりは信じていませんけれどね。)

生まれてくるのは女の子で性別は違うけれど、遼ちゃんの魂なのかもしれない、と、この日更に確信を強めました。

しかし最後の健診日、出産日を数日後に控えて、医師から急に日にちを変えてほしいと言われたのです。9月5日は学会が入っていたのに、どういうわけか失念してしまっていたのだと。先生は土壇場で変えてしまってと申し訳なそうにしていました。

そんなわけで、出産日は1日早まり、9月4日に決まりました。

遼ちゃんの命日が誕生日にならないのか・・・私達は一瞬、肩透かしを食らったような残念なような気がしました。しかし、すぐに気付いたのです。

遼ちゃんの命日の一日前に生まれてくる子。遼ちゃんの命日には、私の不安は取り去られ、この子を抱いているのだ、と。

私はハッとしました。「生まれ変わり」を背負わされることへのお腹の子の拒否のような、「私は私なのだ」という彼女の自己主張のような、ごちゃ混ぜにせずに命日をちゃんと悼んでほしいという遼ちゃんの思いのような、お腹の子に集中して出産できるようにとの神様の優しい御配慮のような、それら全部のような、そんな気がしました。

実際、遼ちゃんのことがあってからの9月5日は、毎年決まって私の心は大いに乱れ、嵐の大海を渡るような一日になったのでした。予定通り9月5日に出産となり、あの日と同じように分娩台にのぼったら、あの日のことがフラッシュバックして、私はどうなるか分かりませんでした。

そして、神様に、生まれてくる命をきちんと分けるようにと言われているような気もしました。

亡くなった子の命日が誕生日というと、とてもドラマチックな感じがします。生まれ変わりという神秘的なドラマは、まるで悲しみを塗り替え「無かったことにする」ような心理が働きます。特に私はそのような美談に酔いしれやすい性格でした。

私は心の帯をしっかりと締めました。全ては神様の手の中にあることだと思いました。どうか神様、私とお腹の子を見守っていてください。私が強く乗り越えられるように力を与えて下さい。心から祈っていました。

9月4日になりました。私は家族の温かな目に見送られ、手術室に入りました。抱きついてきた息子の柔らかな頬の感触がお腹のところに残っていました。手術台に仰向けに寝た私は、まさにまな板の上の鯉というように、全てを委ね、全てを信じ切って安心していました。

しかし、ライトが照らされ、いよいよだという時になって、私は強烈な不安に襲われました。私は呼吸が荒くなり、震えが止まらなくなりました。分娩台から身を翻して逃げだしたい衝動にかられ、そんな自分に呆れ驚きながらも自分ではどうすることもできませんでした。

看護師長さんが私の手をしっかりと握り、さすりながら励ましました。

「大丈夫、大丈夫。あんなことはもう起きない。安心して。あなたは今トラウマに苦しんでいるだけだよ。あんなことがあったのだから、当たり前だよ。」

そうか、トラウマか・・・

視界が晴れたような気がしました。

私はすっかり乗り越えて達観しているつもりだったので、自分の恐れがまだこんなにも残っているとは思いもよりませんでした。思えば私は遼ちゃんを失った悲しみだけに心が支配され、それ以外の自分自身の恐怖や怒りや絶望の感情には全く感知もせず、ケアもしていませんでした。私はそれをやっと拾い上げて理解することができ、震えと呼吸が落ち着きました。私が全てを手放すことができた瞬間でした。

「元気な女の子ですよ!!!」

大きな産声が聞こえました。濡れた、小さな柔らかい赤ん坊が私の胸に置かれました。そのずっしりとした確かな重みに、私の両目から涙が一気に噴き出しました。

かわいい、本当にかわいい・・・

神の祝福と天使のラッパの音が、聞こえました。遼ちゃんのお葬式の時に感じたように、沢山の天使が私の頭上にいて、祝福のラッパを奏でてくれているような気がしました。

小さな濡れた赤ん坊は、本能でおっぱいを探し求め、一生懸命に口に含みました。看護師長さんも泣いていました。

子が生きている、おっぱいを飲んでいる、私に触れている。それ以上に求める物はあるでしょうか。

神様、私は本当に愚かな人間でした。

与えられた最上のものに満足せず、いつも不満を鳴らしていました。

あなたのご計画を理解せず、いつも自分の思い通りにしようとしていました。

あなたはいつも愚かな私を諭し、懲らしめ、そして必ず救いました。

私は心から悔い改めます。あの日々に立ち返り、今、悔い改めます。


こうして、出産と命にまつわる、私の長い長い呪いの道が終焉を迎えました。

生まれた子は「穂(みのり)」と名付けました。

遼ちゃんの時のあの稲穂がいつも心にありました。「穂」は形が松明を連想させるため、「灯」の意味があります。まさに彼女は私達の光であり灯でした。そして、Minori の中には 「inori 祈り」があることに気付いたからです。

 

主よ、私はあなたを讃えます。あなたの緻密で完璧なるご計画を讃美します。

私達の前には神へと続く道があり、進むべき道はちゃんと示され導かれているのです。私達が目の前の愚かな道へと惑わされ迷い込みさえしなければ。

散々惑わされ、迷い、罪深く愚かなことを考え行なってきた私を、それでも神様はいつも救ってくださいました。心から悔い改め、感謝します。

そして私はこれからの人生を神様に委ね、捧げ、神様と共に生きていこうと心に決めました。

 

どうか、一人でも多くの人が、神様と繋がることが出来ますように。

心から祈ります。

 

うまれることと死ぬことと vol.1     うまれることと死ぬこととvol.9

うまれることと死ぬこととvol.2        うまれることと死ぬこととvol.10

うまれることと死ぬこととvol.3       うまれることと死ぬこととvol.11

うまれることと死ぬこととvol.4      うまれることと死ぬこととvol.12

うまれることと死ぬこととvol.5     うまれることと死ぬこととvol.13

うまれることと死ぬこととvol.6     うまれることと死ぬこととvol.14

うまれることと死ぬこととvol.7     うまれることと死ぬこととvol.15

うまれることと死ぬこととvol.8

 


コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中